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​小さなミラクル通信

守秘義務尊重のため内容は著者の経験に基づいた創作です

ぬれ衣から得るもの

執筆者の写真: 王丸典子王丸典子



ラティシアの場合

ラティシアが事故に遭ったのは、いつものように仕事に向かうある朝のことでした。事務所手前の大きな道路を左折して、オフィスの駐車場に入ろうとしたその時、対向車線を猛スピードで走ってきた車に横からぶつかられました。


ラティシアの車は大破して、保険会社が事故処理に当りました。数ヶ月の査定の結果、保険会社の出した結論はラティシアの「前方不注意」でした。対向車のドライバーが大幅な速度違反をしていたことは明らかで、またその人がスマホを使っていたと証言した目撃者もいましたが、確固とした証拠もなく車の破損状態から、ラティシアの過失ということになってしまいました。


納得がいかないラティシアは、その日から何とか決定を覆そうと、いろいろなことを試みました。忙しい仕事の合間を縫って、何度も保険会社の査定担当者と電話で話しました。しかし担当者は一度出した結論は、新しい証拠が出てこない限り変わることはないとの一点張りでした。気の治まらないラティシアは、今度は弁護士を雇って、争うことを決意しました。


そこからはラティシアにとって「人生最悪の日々」でした。まず第一に、裁判の決着がつくまで心の休まることがありませんでした。いつも大きなストレスを抱えていて、体調の良くない日が続き、病院に通うことになりました。


そして弁護士費用は、予想をはるかに上回る額でつぎ込んでもつぎ込んでも、まるで終わりのない真っ暗なトンネルに迷い込んだような状況でした。そんな極限のストレスを抱えて過ごした結果、8ヶ月後に出た裁判の判決もやはり「ラティシアの過失」でした。


ラティシアの取った行動は、決して間違ったものではありません。しかしそれは、悔しさや腹立たしさといったネガティブな激情が基になって始まりました。ラティシアのようにネガティブな感情に駆られて負のスパイラルにはまると、状況をいろいろな角度から検証し、客観的に判断することがとても難しくなります。そして結果的にラティシアは、自分自身をもっと困難な方向に導くことになってしまいました。


スタンの場合

一方スタンが事故に遭ったのは、毎週楽しみに参加している #ヨットククラブ でのセーリングのあとでした。冬の #サンディエゴ は、午後4時半には日が落ちて真っ暗になります。そして海辺の道は照明もあまりなく、ほとんど車も走っていません。その時スタンはヨットを操縦したあとの爽快感で、とても気持ちよくある交差点の青信号を走り抜けようとしていました。


その時大きなトラックが、信号無視でスタンの車に激突してきました。それは、アッと言う間の出来事でした。奇跡的にスタンもトラック運転手も怪我はなく、警察を呼んで現場検証をしてもらい、その後保険会社に事故処理を依頼しました。


それから3ヶ月後、警察の報告書をもとにした保険会社の査定結果は、驚いたことにスタンの信号無視による事故という結論でした。これはトラック運転手がウソの供述をしたため、運転手とスタンの双方が、「青信号」だったと主張したことになりました。


そこで警察と保険会社は車の損傷具合や、事故後の車の向きの写真をもとに、このような結論を出したのでした。車通りの少ない道での事故であり、目撃者もいなかったためスタンとしては反論のしようがなく、憤懣やるかたない気持ちで数日を過ごしました。


しかしスタンは次第にこれは生きているとたまに遭遇する「不条理」なことがらだったと考えるようになりました。現在60歳のスタンは、自分のこれまでの人生の中で同じような経験が何度かあったなと思いました。


その際自分にとって一番役に立ったのは、#不条理 な出来事から生じた腹立ちや絶望感から自分を解放し、生活の中にある楽しみや喜びにフォーカスしたことだと気づきました。そこから状況を受け入れていくことを決意しました。このようにスタンは状況を客観的に考えるプロセスを通して、徐々に心の安定を得ることが出来るようになりました。


#ぬれぎぬ から得たもの

ラティシアとスタンは同じように事故に遭い、自分に非のない罪をかぶることになりました。しかしその後の二人の行動は、両極端でした。ここで是非注目したいのは、二人の行動が正しいかどうかという議論ではなく、それぞれの思いから出た行動の結果、二人の生活にその後どのような影響があったかということです。


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